大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和35年(レ)19号 判決 1960年7月20日

控訴人(再審原告・本訴被告) 横瀬嘉造

被控訴人(再審被告・本訴原告) 羽鳥正男 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。土浦簡易裁判所が昭和三四年(ハ)第九八号貸金請求事件につき言渡した判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。本訴および再審の訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人羽鳥正男は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人羽鳥英雄同羽鳥ゆうは、いずれも適式の呼出を受けながら当審口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面を提出しなかつた。

当事者双方の事実上の主張は、

控訴人において、「被控訴人らと控訴人間の土浦簡易裁判所昭和三四年(ハ)第九八号貸金請求事件は、被控訴人らが昭和三十四年九月十四日控訴人を相手方として同裁判所に対し申立て発布された支払命令に対し、控訴人において異議申立をした結果本案訴訟として移行し係属するにいたつたものである。しかして控訴人は右支払命令に対する異議申立書において、被控訴人ら主張の貸金はこれを借りた事実は認めるけれども、既に全額支払ずみである旨を記載し右請求の理由のないことを主張した。しかるに同裁判所は右弁済の抗弁につき何も判断することなく漫然控訴人敗訴の判決を言渡した。これは明らかに民事訴訟法第四百二十条第一項第九号にいわゆる判決に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断を遺脱したときに該るものである。」と述べ、

被控訴人羽鳥正男において、「控訴人主張の右事実のうち同裁判所昭和三四年(ハ)第九八号貸金請求事件が控訴人主張の経過により本案訴訟として移行し係属するにいたつたものであることは認めるが本訴判決にその主張のような再審事由があるとの点は争う。」と述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

証拠として、控訴人は甲第一、二号証を提出し、被控訴人羽鳥正男は甲号各証の成立を認めた。

理由

被控訴人らと控訴人間の土浦簡易裁判所昭和三四年(ハ)第九八号貸金請求事件が、控訴人の異議の申立によつて支払命令より本案訴訟に移行し係属するにいたつたものであること、控訴人が適式な呼出を受けながら右訴訟の最初の口頭弁論期日に出頭せず、右異議申立書のほかには答弁書もその他の準備書面も提出しなかつたところ、同裁判所は即日結審し昭和三十四年十一月二十一日控訴人敗訴の判決を言渡し、該判決が確定したことは当事者間に争がない。

そこで本件確定の終局判決につき控訴人主張の再審事由があるかどうか、その事由がある場合それを主張することが許されるかどうかについて判断する。控訴人と被控訴人羽鳥正男間には成立に争がなく、控訴人とその余の被控訴人間においては弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第一号証によると、控訴人提出の異議申立書には控訴人主張のような弁済の抗弁の記載があることが認められる。そして右申立書はその記載内容よりすれば実質的には他面いわゆる準備書面と解せられるので、原裁判所は民事訴訟法第百三十八条により控訴人提出の異議申立書に記載された事項は陳述したものと看做し、出頭した被控訴人らに弁論を命ずべきであつたのである。ところが控訴人と被控訴人羽鳥正男間には成立に争がなく、控訴人とその余の被控訴人間においては公文書であるから真正に成立したと推定される甲第二号証(判決書)によると、同裁判所は控訴人は口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書もその他の準備書面も提出しないから被控訴人らの主張の貸金の事実をすべて自白したものと看做して異議申立書に記載された弁済の抗弁については何等触れるところなく控訴人敗訴の判決を言渡したことが認められるので同裁判所は右異議申立書を準備書面とみることなく、したがつて同書面記載の事項を陳述したものと看做さなかつたことは明らかであるから同裁判所が右異議申立書記載の事項を陳述したものと看做して出頭した被控訴人らに弁論を命じなかつたことは訴訟手続に違背したものといわねばならない。そして右の結果同裁判所が申立書記載の弁済の抗弁につき判断を与えなかつたのは、控訴人が口頭弁論において右抗弁事実を主張したのにこれを看過して判断をしなかつた場合と択ぶところがなく、また右抗弁の採否如何が判決の結論に影響することは明らかであるから、右の点に関する判断の遺脱は、民事訴訟法第四百二十条第一項第九号にいう判決に影響を及ぼすべき重要なる事項につき判断を遺脱したときに該るものと解するを相当とする。

しかしながら、同法第四百二十条第一項但書によると、再審事由があつても、当事者が上訴によりその事由を主張したとき、又はこれを知つて上訴しなかつたとき、あるいは上訴するもこれを主張しなかつたときは右事由に基く再審請求は許されないのである。しかして前示本訴の記録によると、右事件の判決正本が昭和三十四年十一月二十日控訴人に送達されたことが認められ、そして控訴人が指摘する前認定のような事由は、判決文自体から明らかに看取されうるから、控訴人は右判決正本の送達を受けるとともにこれを知つたものと見るべきところ、控訴人が右判決に対し控訴して右事由を主張することなく本訴判決が確定したことは控訴人の自陳するところであるから、控訴人はも早や再審による不服の申立をすることのできないことは同条第一項但書後段の規定上明らかである。

よつて、本件再審の訴は不適法として却下を免れないところその理由は異るが控訴人の本件再審の訴を却下した原判決は結局において相当であり本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第二項によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九十五条第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 和田邦康 諸富吉嗣 楠幸代)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例